あとがき:そらもようができるまで
書くよ書くよと言い続けてはや半年超。
忘れていたわけではないのですが色んなことが重なってなかなか書けずじまいだったアルバム制作に関するあれこれをまとめてみました。
ほぼ思い出話に終始するので目新しいことはありませんが、読みながらもう一度アルバムを聞き返していただけちゃったりすると嬉しいな、と思います。
そもそものきっかけ
いきなり関係の無いお話から入るのですが、高校生の頃不登校ぎりぎりの出席日数で授業についていけず、たまたま同じクラスだった学年3位とかいう恐ろしい成績を誇るS君に「ノート見せてくれない?」と話しかけたことがあります。
S君の回答は「良いよ。ただしノート1回見せる毎にポエムひとつ書いて来い」。
なんとS君はポエマーだったのでした。驚く高校生瀧沢。ポエムですってそんな恥ずかしい。しかしノートは見せてほしい。ポエムで済むなら……と、奥歯ぎりぎり噛み締めながら手帳に言葉の断片を書き溜めるようになったのが、私の作詞のスタート地点です。子供の頃から替え歌を作ったり即興で謎の歌を口ずさんだりはしていたのだけど、きちんと「作詞」って考えながら詩を書くようになったのはS君の一言がきっかけだろうなあと思います。
奇妙な交換条件で始まった作詞が、段々と楽しくなってきて、もともとエレクトーンを習っていたのもあってそのうちメロディがつくようになり、やがて自分も歌を歌うようになって――という感じで今に至ります。
恥ずかしくって当時のノートごと穴を掘って埋めたくなるようなものばかりだし、断片的なものが殆どできちんと1曲分の形になってるものはそんなにないのだけど、気に入っているのもいくつかあって、今でも鼻歌で口ずさんだりしてしまいます。
「そらもよう」は、そんなお気に入りの鼻歌を形にしたアルバムです。
S君元気かなあ。あの一言がきっかけで○年後にアルバム作っちゃうなんて予想してなかっただろうなあ。
笑って
アルバムの中で一番新しい曲です。
信じられないような未曾有の災害の前に人ひとりの力はとてもちっぽけで、刻一刻と変化する情報に自分自身も翻弄されて取り乱してしまう日々。手の届かない場所にいる大事なひとに対してできることが何もなくて、ただただ「どうか笑っていてほしい」と祈りました。
他の誰でもない自分自身に、そして被災地にいる親戚や友人達に向けた祈りの歌です。
アルバムを作るぞ、というお話の一番最初のきっかけになった曲でもあります。
ある時NAKIさんに歌の伴奏をお願いしてみたらOKを頂けてしまったので、これはアルバム作れるかもしれない、と勢いづいたのがミニアルバム「そらもよう」のはじまりでした。
この曲の伴奏をNAKIさんにお願いすること、そしてアルバムの1曲目にすることは一番最初に決まりました。
幸せの迷路
アルバムの中で一番古い曲です。多分。
もともとはサビ以外は違う歌詞で、しっくり来なくて放置していたところ数年前とある作品にインスピレーションを頂いてごっそり歌詞を書き換えました。
恋する気持ちのなかにどことなく盲目的な背徳感の漂う、ハッピーエンドではない幸せの形。お気に入りです。
自分でメロを作った時点である程度のコーラスはついていたのですが、サビやラストのコーラス部分は甲斐さんに作っていただきました。とても綺麗で印象的なコーラスになりました。流石の甲斐さん! コーラスの収録がとても楽しかったです。
そらもよう
この曲も結構古いですね……7年くらい前でしょうか。
ひとつのお別れを空模様の変化になぞらえた歌です。
幼い日の思い出を大人になってから思い出すような、しんみりした雰囲気です。
NHKのみんなのうたで手作りアニメーションと共にしんみり流れていそうなイメージで! とDauGeさんにお願いしてアレンジしていただきました。
歌詞の中のお話にあわせて、曲の雰囲気も変化していきます。
お別れの歌ではありますが最後は雨模様から少し晴れ間が覗いているイメージで、とお願いしたらとてもぴったりな雰囲気にしていただけました。
当初ハモリやコーラスは入れない予定だったのですが、あんまり素敵だったので収録前日にがっつりコーラスアレンジを考えました。そのコーラスを忘れないうちにスタジオへ……という勢い進行。このアルバムの曲は全体的にくどさんのスタジオでなければ出来ない無茶で出来上がっています。ありがとうございます。
言葉遊び
別件で「音」というテーマで何か作ろう、と思ったときに出来た曲です。
シンプルな曲にしたいなあと葦菜さんに相談してみたら「木琴じゃない?」「やっぱり木琴だよね」という勢いでこの曲のために木琴を買いました。
木琴を使うのは初めてだったのでマレットを取り寄せて何種類か叩き比べてみたり、収録時もくどさんにセッティングを工夫していただいたりと地味に試行錯誤を繰り返した曲です。完成した曲にはくどさんに加工していただいた音を使っています。くどさんさまさまです。
余談ですが、この曲の収録の日、近年まれに見る大雪が降りました。
自宅からくどさんのスタジオまで片道2時間以上かかるのですが、その距離を楽器を抱えて大雪の中大移動――とんでもなく冒険気分を味わった一日でした。
君の海
具体的な制作時期は覚えていないのですが多分アルバムの中で2番目くらいに古い曲です。
どこまでも透き通る海、小さな木の小舟、水底を覗き込むような姿勢で、水面に映る空を眺めて泣く少女。という場面とともに温めてきた曲です。もうずっと何年も前から。
jiromaruさんに「ファンタジック+民族調な雰囲気で!」とお願いしてアレンジしていただきました。
出来上がったアレンジデモを聞いたときの「なんとなくもやもやと抱いていたイメージがはっきり形になりました」感がものすごくて、よりくっきり輪郭を持たせるためにわくわくしながらコーラスやラストの台詞を考えました。
ちなみにラストの台詞は造語です。誰の台詞なのか、どんな意味なのか、思い浮かべながら聞いていただけると嬉しいな、と思います。
太陽はどこにあるの
一言で述べて、「おまいらの歌」。もちろん「おまいら」の中には自分含む。
綺麗な言葉で取り繕ってもしょうがないので正直に書きますが、10年位前の自分の心境をリアルに綴った歌です。多分曲の原型が生まれたのもその頃です。
先の見えない この時間を
持て余しては 握りつぶしてた
無為に過ごした 自覚はあって
けれど無力で 抜け出せはしない
とか、10年前の自分に襟首絞められる様な思いがします。苦しい。この苦しさがわかる人に聞いて欲しい。
あれから10年ほどの時間が経って、今の私は抜け出せたのかな、と考えます。多分抜け出せたから今この歌を歌えたのだと思いますが、あんまり自信がありません。
ともすれば何の救いもないままただ陽の光を浴びているだけ、という薄暗い雰囲気になりかねない曲ですが、葦菜さんの編曲によって不思議と希望を感じさせる曲に生まれ変わりました。アレンジの力って偉大です。
ところでこの曲のサビは1コーラスめと2コーラスめでコード進行ががらりと変化しています。メロディだけ作ってた段階では、私のイメージでは1コーラスめのコードがしっくり来るのですが、葦菜さんのイメージでは最初から2コーラスめのコードが浮かんでいたそうです。
コード無しの状態だと同じメロディでも聞く人によって明るく聞こえたり寂しく聞こえたりするんだな、と。そんな発見もあったりして、サイト試聴用のクロスフェードデモにこの曲のサビの部分は収録しませんでした。
初めてこの曲を聞いた方は、曲の頭のアカペラのサビを聞いてどちらのコードを思い浮かべるのかな、と、そんなことも気になる1曲です。
写真のこと
帯の裏側をご覧になった方はご存知と思うのですが、このアルバムのデザインに使用した写真は全て自分で撮影したものです。
いつかCDを作るためにちくちく撮り溜めてきた私の写真フォルダが火を吹くぜ! となるつもりが、案外気負って撮った写真は使えなかったりするもので、何故かiPod touchのカメラで気軽に撮った写真が登場していたりします……。
帯裏に撮影場所や被写体の事を一通り載せているのですが、サイトにも掲載している写真について軽く解説を。
宮城県は大崎市三本木町にある、ひまわりの丘で撮影した写真です。ジャケット画像には更に実家のベランダから撮影した空の写真を合成しています。
ひまわりの花はアルバムの内容とは関係ないのですが、「そらもよう」というタイトルにこの空をバックにした笑顔っぷり(ジャケット画像をご覧下さい)。これしかあるまいと採用。したところ、春なのに夏のイメージが色濃いアルバムになりました。
ところでひまわりの笑顔は観光客のどなたかの悪戯なのだと思います。とっても素敵な笑顔だったので写真を撮ったばかりかジャケットにまで使用してしまいましたが、マナーの面から言うと褒められた行為ではありませんので真似しないで下さいね^^;
アルバムのバックインレイにも使用したこの見事な終末感漂う空は、2009年秋のM3会場にて撮影したものです。
記憶に新しい方もいらっしゃるのではないでしょうか。横浜大さん橋ホールの、焦げるような快晴の後に訪れた夕焼け空です。実にドラマチックかつ絶望的なコントラストでこの写真は使わずには。
フォントのこと
アルバムタイトルや歌詞カードで大活躍しているフォントは、「はんなり明朝」といいます。
とってもお世話になったのでリンク貼っちゃうぞ。えいえい。
Typing Art様
歌詞カードにおけるフォントの選択って結構重要で、フォントの雰囲気によってポップにもクールにも全体の印象が大きく左右されます。
印刷物まわりをどんな雰囲気にするか全くイメージの湧かないところから初めて、まず最初に手をつけたのがフォント選びでした。
はんなり明朝のかっちりしたようでいてふんわりと柔らかい雰囲気はとても使い勝手が良くて、このフォントと出会えたことで歌詞カードやジャケット作りが大分進めやすくなりました。フォントの雰囲気って本当に大事なのです。また他の作品でも使いたいフォントですね。
それからもうひとつ。
歌詞カードで各楽曲のアイコンっぽく使用している月や星のマーク、これもフォントです。
「Twinkle Line」といいます。
FLOP DESIGN様
名前の通り罫線的な使用に特化したフォントなのですが、クリスマスやハロウィンなど季節物のマークもあって見ていて飽きません。配布元のサイトさんを見てみてね!
最後に
このアルバム特設サイトを作るに当たっては、下記のテンプレートサイト様のお世話になりました。
アルバム全体の雰囲気を伝えるのに特設サイトのデザインもまた欠かせないポイントで、イチからサイトを組み上げる余裕はなく、でもあんまり凝ったことは出来ないし……! とたくさんのテンプレートサイト様を回った中で自分的に一番扱いやすくときめくテンプレート群を配布されているサイト様でした。
Starlit様
こういう出会いってモチベーションを左右するのでほんとに大事。ありがとうございました。